「重ねの椅子」を出展〜第二回「湧水地点」
2014.10
10/31(金)から開催している秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻教員展 第二回湧水地点「おふくわけ」に、新作「かさねの椅子」を、出展しています。
「かさねの椅子」制作コンセプト:薄いスチール板の展開図をL字断面で繋いでいくことで完成する構造体。形状は、空間上の上下方向のほか前後方向に対しても抜け勾配を設定することで、脚部が床から浮くことの無い完全な水平スタッキングを可能にしている。ショッピングカートのように重なることで、スタッキング性能は非常に高い。
かさねの椅子の制作は、いつもお世話になっている「sixinch JAPAN」にお願いした。
http://www.sixinch.jp
■ 「おふくわけ」
(秋田公立美術大学 第二回ものづくりデザイン専攻教員展)
会場: 3331 Art Chiyoda 1F 3331ギャラリー
会期:10月31日(金)〜12月9日(日)10:00〜19:00
作品の詳しい解説
↓
このアイディアは1999年の夏、御茶ノ水のスターバックスでコーヒーを注文している時にふと頭に浮かんできた。紙コップの重なりにインスピレーションを得たのか・・・
スタッキングチェア(=積み重なる椅子)は人類が「椅子」を作り続けている歴史上で、ありとあらゆる試行錯誤が繰り返され様々な仕様のものが存在する。素材は無垢の木材、成型合板、スチールパイプ、合成樹脂、カーボンファイバーなどの最先端素材も含め歴史と共に多種多様な展開が見受けられ、またその構造に目を向けることで、設計者の類い稀なる工夫を多く発見することができる。
インスピレーションを得た1999年のペーパーモデル(スケールは僅か1/20というミニマルなもの)から10数年を経て、過去から現在進行中のスタッキングチェアの歴史を俯瞰的に再考し観察することで、ただ収納のための機能としてのスタッキングを超えて「美しく重なる」という付加価値としての新たなる構造へのチャレンジと、素材に対する原点回帰を試みることとした。
本作品「かさねの椅子」は、ショッピングカートの構造から多くのヒントを取り入れている。ちなみにショッピングカートの歴史を調べると「1937年にユダヤ系アメリカ人のシルヴァン・ゴールドマンが、木製の折りたたみ椅子をベースにした設計に基づいて最初のショッピングカートを組み立てた」とされる。奇しくもショッピングカートの原点は「椅子」から始まっていたのである。
構造を完成させるにあたり、日本の「おりがみ」が持つ伝統的思考を強く意識した。紙を「折る」「曲げる」ことで得ることのできる強度は、紙に限らず、木材、金属、合成樹脂などのあらゆる「薄い素材」の基本的構造解釈となる。僅か1.2〜1.6mmのスチール板で構成されるフォルムは、接合部を全てL字型断面で繋いでいくことで全体強度を確保する(→紙を折る)。座面の緩やかなカーブ断面も同様に荷重に対する強度を確保している(→紙を曲げる)。
このフォルムを構成するもうひとつの要素として、空間上すべての3次元方向(上下左右)に向けてテーパー(=抜け勾配)を設定することで、本体が床から浮くことの無い、水平方向への完全な「重なり」を可能にした。素材への原点回帰として、紙のように薄いスチール板を素材として利用することでスタッキング性能は非常に高く、また重量もフルサイズのアームチェアとしては超軽量級の4kgを切ることに成功した。
人類が作り続けてきたスタッキングチェア=「積み重なる椅子」に更なる進化を与え、積むことを全く必要としないリピーティングチェア=「かさねの椅子」を完成させた。